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かせいのまじゅつし

火星の魔術師

蘭 郁二郎

線上閱讀蘭 郁二郎《火星の魔術師(かせいのまじゅつし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 151,120 字 · 302 頁

青空文庫

――それは、空を飛下りる時の、妖しい幻影にのみ、愉をつないでいる、淋しい男の姿だった。

しかし、このタッタ一つ残された「夢」というオアシスにも、到頭恐ろしい破局が訪れて来た。

それは、まだ、葉子の誤解もとけて、睦まじく話すことの実現しない矢先に、突然、この町から少しばかり離れた資産家の化粧品商の息子と、あの葉子とが、近々結婚することになった――という、彼としては、いきなり千仭の谷へ突落されるような、忌わしい幻影なのであった。

黒吉は、この妖夢を見た瞬間から、スッカリ心の平衡を失ってしまった。

(俺の楽しい夢、俺の素晴らしい楽園は、もう木葉微塵に叩き壊されてしまうのだ……)

(かつて、あの「空の白日夢」の外れたことはない――とすれば、この忌わしい「予言」も、キット実現するに違いない――)

なんという恐ろしいことであろう。

物心ついてから、早くも一生の寄生木として心の奥底から、それこそ、何物にも代え難く愛し、敬し、慕っていた、その偶像「葉子」が、この自分を棄てて、結婚してしまうのだ。

――近頃の、惨酷にまで冷めたい葉子の仕打から見て、

(そんなことになりはしまいか……)