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かせいのまじゅつし
火星の魔術師
蘭 郁二郎
線上閱讀蘭 郁二郎《火星の魔術師(かせいのまじゅつし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 151,120 字 · 302 頁
だが、葉子は――。
可怪しな事に、この黒吉の心を、急廻転させた、その原動の葉子が、此処には、姿を見せていなかった。けれども、誰か座員が、四辺りを、よく注意して見たならば、この稽古場の隅の、薄暗いところから、隠れるようにして、この様子を見詰めている葉子に、気がついたろう。
葉子に気がついたとしても、誰も、この黒吉の大変化に、この少女を結びつけて考えるものはなかった――いや、むしろこの血みどろな稽古には、彼女が、隠れ見していた方が、よっぽど自然に見えた。
しかし、これは、彼女にとって、恵まれた偶然だった。彼女は、先刻から、この野獣のような、肉と骨との相打つ、荒々しい雰囲気に飛出して行こうとしても、足が前に出ぬ程の亢奮を感じていたのだ。
そして、眼の前にのたうつ肉塊が醸す、グイグイ締付けられるような、圧力を伴なった幻酔感は、この少女に、立っている事にすら、苦痛を与えた。彼女は、掌に汗を握り、荒い息吹きの中にあった。
(あっ、血が――)
黒吉は、鼻血を出したのだ。彼は周章て、上を向くと、鼻血は、鼻の傍から、スーッと赤黒い線を残して、耳の裏に、遁げ込んで行った。