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かせいのまじゅつし

火星の魔術師

蘭 郁二郎

線上閱讀蘭 郁二郎《火星の魔術師(かせいのまじゅつし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 151,120 字 · 302 頁

青空文庫

舐めた方が早くなおるんだって、いったわ」

傷に唾液をつける事は、彼等の中でありふれた、最も原始的な、治療法だった。しかし、葉子が、唯、本当の親切心から舐めて遣ったのだろうか――。尠くとも黒吉は、彼女の親切と信じていた。が、先刻の、不可思議な様子を考えてみると、恐ろしい事に、この可愛いい少女は、この惨らしい血の滲んだ傷に、残虐な魅力を、舐めたい衝動を、感じたのかも知れない。いや、確かに、その亢奮を感じたのだ、唾液をつけて遣るだけなら、何も、舐めてやる程の事もないだろうから――。

しかし、黒吉の胸は、幸福に、膨らんでいた。

「葉ちゃん、もういいよ。もう痛くないから」

葉子は、黙って顔を上げた。

「俺ア、葉ちゃんに訊きたい事があるんだ」

「なによ」

「何って。なぜ俺みたいに醜ないもんと、遊んでくれるんだい」

「醜なかないじゃないの。あたしあんたが好きよ。穏和しいんだもん。義公みたいになまっ白い、それでいて威張っている奴なんか大嫌さ」

義公は同じ黒吉一座の少年座員で、可愛いい美少年だった。黒吉は彼女の口から、その名前を聴いただけでも、快よくはなかった。

「……それでさ、義公ときたら梯子の上であたしを受取る時なんか、わざとぎゅっと抱くのよ」