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かせいのまじゅつし

火星の魔術師

蘭 郁二郎

線上閱讀蘭 郁二郎《火星の魔術師(かせいのまじゅつし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 151,120 字 · 302 頁

青空文庫

それは無論、薄い肉襦袢越しではあったが……。

黒吉は、すれすれに近づけられた、葉子の瞳の中に、自分の醜い顔が写っているのを見つけて、無意識にハッと眼を外らした。しかしあの写った自分の顔の中の瞳に、又葉子が写っているんだ、と思うと、もう一遍覗いて見たい気もした。

「葉ちゃん……」

彼は、口の中でそういうと、思い切り彼女を抱き締めた。だが、いくら力を入れても入れても、彼女には感じないのじゃないか、と思われる程、葉子の体は、むちむちと豊かな弾力に充ちていた……。

――こうした遊戯は、陰の陰で、誰知らずの間に行われた。そして、も一つの陶酔は、観衆の眼の前で行われたのだ。

それは、彼等の曲芸だった。

一渡り、噺し立てられたジンタが済むと、旋風のような、観客の拍手に迎えられて、ぴったりと身についた桃色の肉襦袢を着、黒天鵝絨の飾りマントを羽織った黒吉と、同じ扮装の葉子とが、手を取りあって、舞台に現われる。

そしてその黒天鵝絨のマントを、パッと真紅な裏を見せながら脱ぎ捨てると、小屋の天井の両端から、一本ずつ垂らされた綱に、手をかけた。と見るともう二人は、殆んど並行して吸上られるようにするすると登って行った。