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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 頁
……そうならぬ和をお互いに支え合い、世の福祉を計り、とまれ妻子のなかで、無事一生をとげるのを以て、わしは学問としておるが」
「ははあ、そうですか」
「違うか」
「分ることは分ります。良い妻を持たれて、三人の和子の父君だ。御幸福にはちがいない。しかし、武門の常、べつな日のお覚悟もなくてはならぬ。正季ですら、一朝の心構えはしています。それを、無用なものへ血道を上げている、とのお叱りは心外だ」
「ま。おぬしも早く、妻を迎えて、よい子を抱え、父親の膝の重さや温みを、凡身に知ってみることだな」
「思いもよりません。ぞっとします」
「いやか」
「世が世なら、どうか知れませんが、あすをも知れぬ風雲や、世の真夜半が知れていては」
「おぬし、どうして、明日のことが、さまではっきり分るのか」
「…………」
正季は、黙った。――兄の年と共に保守的な、いや退嬰的ですらある身の処し方は、いま知ったわけでもない。で、これ以上論争する心にもなれず、胸中の火を、ぶつけてみる気にもなれなかったものらしい。
まもなく、彼は酔いもえず、水分の山館を辞して、黙々と、馬を龍泉の家へ返していた。
卯木が、ここの故郷にたどり着いた日は、ちょうど、雨乞い祭りの三日目だった。