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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 頁
雨情風心
さ、走りましょうぜ」
ふたりをせき立てながら、具足師柳斎も足を早めた。
雨情風心
雨乞いが終ると、案のじょう、近郷の悪声がすぐ起った。
土豪にしては無能なほど、隣郡との軋轢なども避け、ただ無事を守っている水分ノ館だったが、それにしてさえ、敵はあった。あわよくば、その領を蚕食すべく、つねに積極的な他の土豪の乱波(第五列)が、純朴な農民をそそのかして、すぐ攪乱を計るものらしい。
楠木家の家職の恩智左近は、ここ数日、そんなことを小耳にはするし、相変わらずのつんぼ空やらで、老いの一徹をカンカンに火照らせていた。
今日もである。
彼は、山田申楽の二十余名が、いよいよこの地の奉仕もおえたので、大和の春日へ寄って伊賀へ帰る――というのを領境まで見送っての帰り、馬上、ふウふウ喘いながら戻って来た。
すると、観心寺道から、石見川ぞいに、里の方へ下りて来た四、五人づれの郷武者たちが、
「やあ、御老体」
すぐ見かけて、中の一人、天見ノ五郎が問いかけた。
「どこのお帰りです。この炎天に」
「つい今、山田申楽の一同を、石川まで見送って来た」
「それは、それは。併せていえば、雨乞い祈祷も、ただただ御苦労千万と申すほかありませんな。