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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 頁
波々々
眼がさめて、甦えッた青田を見るのを愉しみに」
波々々
住吉ノ浦は、住吉四座の境内から敷津、粉浜まで、ほとんど松ばかりの砂地だが、摂河泉の街道、木妻ノ辻の辺は柳が多い。
明けて、元徳三年。
もう花は散ッて春も四月に入っている。
柳の青は、そこの“木妻百軒”を、淡い平和なさみどりに煙らせ、町屋の中の一軒には、具足師柳斎の看板も見うけられる。
近所の店屋とちがい、家は、土間暖簾のうちも冷んやりとうす暗く、柳斎はつねに、裏二階に、起き臥ししていた。
部屋には、仕事用の長板やら、錣の糸掛け、草摺掛けなどを置き、染革の切れッぱしだの膠鍋が、ざつぜんと、散らかっている。ときには、万年寝床も敷きっぱなしだ。べつだん変り者とも見えないが、この年で女房も持たず、なぜか、独り者なのである。
「だんなさま」
階下で、にぶい声がしていた。雇人の婆やである。男も幾人かいるが、昼間はみな出払っているらしかった。
「飛脚でございますだ。そこへ、お持ちしましょうかの」
「おッと。それには及ばないよ」
柳斎は、いま、机に倚って、自分も何か他念なく筆をもっていたところだったが、あわてて自身、梯子段を降りて行った。