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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 頁
くまわか草子
国中のあちこちには、傷ましい史蹟が多い。
承久ノ乱で、この佐渡へ流され給うた順徳上皇の黒木ノ御所やら、日蓮上人が氷柱の内に幽居した塚原ノ三昧堂などへも、詣ってみた。
が、右馬介の柳斎が、さがしていたのは古跡ではない。現実の人、日野資朝の配所なのだ。その生死如何なのだった。
とこうするうち、彼は妙宣寺の日満と知りあった。日蓮宗の阿仏坊日満は、本間入道の帰衣ふかい僧で、この僧だけは、流人資朝の幽所へ、法談に行くことも、入道から、自由にゆるされていたものだという。
「なに、資朝卿のことをお訊ねか。……お気のどくな……もう世にないお方ですわい」
と、日満はその日彼に問われると、眼をとじてそう呟いた。
くまわか草子
以下は。――島の秋しずかな障子の内で、妙宣寺日満がその日、右馬介へそっと語ってくれたものである。
黄門どの――日満は資朝のことをこう呼んだ――黄門とは中納言の別称だからであろう。
その黄門どのは、七年前、島へ流されて来ていらい、城内の薬師堂に幽閉されて、外との交渉は一さい断たれていた。しかし日満だけは、例外とされていたし、妙宣寺と幽所のあいだはお濠の刎ね橋一つほどな近距離でもあったから、自然、会わぬ日もないほどな仲だった。