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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 頁
ことばの端に、ちらと卯木の名も出たゆえ、さてはと、虫の知らせのようなものが、ふと言い当てたものとみえる」
「まこと、お察しのとおりにござりまする。が、ここでは細かいお話なども」
「いや、ここがいい。――一応は立ち帰ったものの、六波羅の手先の眼は、おそらくまだ、この辺りを油断なく見ていよう。ここは究竟な語り場所と申すもの。……さて、爺、卯木はどんな容子でいたか」
ひとりの妹卯木を、正成もここ数年、雨につけ風につけ、胸に忘れ難かった。
ひと頃は。――この辺にまで、都の噂がつたわって、楠木殿のお妹に、情夫ができ、仕えていた西華門院を逃げ出したとか、その男が、ただならぬ御詮議人だとか、領下の※(「口+耳」、第3水準1-14-94)きも、紛々だった。
で、何かの座談にでも「……近ごろ、都のお妹君は?」などと問う者があれば、正成は、わざとでも、こういわねばならぬ立場であった。
「あのような淫ら者、妹とも思うてはおりませぬ。幼少から御恩をうけた諸家に御迷惑をかけたのみならず、お上の追捕人と手をひいて、行方をくらますなど、言語道断な女です。わが家の名にも泥を塗った妹。