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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 頁

青空文庫

「……では、上り舟は、出ないのでしょうか」

「京へおいでですかい」

「ええ」

「それや、見合せてはどうでございますえ。うっかり、洛中は歩けぬとか言いますがな」

「でも、家が都なので」

「どうでも、お帰りなさらねばなりませぬか。はアてね。そのお子連れで」

とにかく、待ってみるしかなかった。軒下には、蛤の笊が見える。その蛤など焼いてもらって、母子は朝飯をとっていた。

すると、腹巻、膝行袴の若い武士が、葭簀の内をのぞいて、

「おやじ、おやじ」と、口忙しく。

「大急ぎで、腰糧(弁当)七人分ほど拵えてくれい」

「ヘイヘイ。ちょっと、床几でお待ち下さいまし」

「早くいたせ。上り舟を待たせてあるのだから」

――では、舟が出るのかしら。草心尼は立って、すぐ前の河筋を眺めてみた。

淀川舟の上に、はや一と群れの人影が見えている。尼は覚一を連れて、そこの桟橋へ下りて行った。まだ艫の端に、でんと腰をすえていた船頭は尼の問いにも、むッそり顔で、不承不承らしいが、乗れとうなずく。

が、乗合客は、茶店で見かけた武士の仲間だけだった。みな一様に、腹巻いでたちの強らしい郷武者風である。――と気づいて、尼がふと、たじろぎ顔を佇ませると、それをべつな意味に見たのか、中の一人が、