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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 頁

青空文庫

「まだ、何ぞ用かい」

「なんとも、不覚でございました。お別れした後で、病床の妻から、貴重なお薬だのお金をいただいた由など、涙ながら聞かされまして」

「で、礼を言いに追って来たのか。いや、あれはお主が、一河の縁じゃと申されて、憐れなお内儀に上げたもの。そうまでのお礼は、かえって、わがお主には、御迷惑かも知れないよ」

「はい。その御迷惑も、お察しせぬではございませぬ。……けれど、妻へいただいたあのお薬苞は、朝家の典医寮でなくては用いぬ物かとぞんじまする。で、じつは俄に」

「えっ」

菊王の手の水馴棹が、水の中で、ぶると顫えた。もすこし、男のことばの裏に何かが密んでいたら、一颯の水玉と共に、棹は、相手を河へ叩き落していたかも知れない。

「何をばかな。あれやお主が、人様からいただいたお薬だわ。要らざる察しを……。したが、それはとにかく、おぬし散所者の風情で、どうしてそんな細かな点に気づいたのか」

「お気色を悪くなさらないで下さい。常なら、さまで心にとめもいたしません。ところが、さいぜん街へまいった時、はしなく、恐い噂をふと、耳に入れて帰りましたので」

「な、なに。……町で恐い噂を耳にしたからだと」