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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 頁

青空文庫

――で、今日の引揚げをみると、さっそく、枕もとを見舞って、彼女を力づけてやったが、なぜか、卯木は泣いてばかりいて、顔も上げない。

だんだん訊いてみると。

生後いくらもたたない嬰児は、彼女の乳も出ないふところで、ゆうべ、冷たくなってしまったというのである。

妙達は驚いて、

「では、抱いているのは、もう息のたえている冷たいお子か」

と、それでもなお、生けるもののように抱いている親心に、もらい泣きを催さずにいられなかった。

――妙達はいま、以上のことを、良人の雨露次へ、こう告げ終ると、

「さ。はやく行って見ておあげ。かわいそうに、お内儀は、良人のおまえさんが、どうなったかと、それもまた、身も世もない心配らしいよ」

せきたてて、自分は自分の用に立ち去った。

雨露次は、藁御堂の階を、這うように上った。歩く力もなかったのである。そして、暗い御堂の扉をあけた。舟底に病んでいたとおりな寝すがたが、すぐ彼の眸をただらした。けれど赤子の声はもう聞かれもしなかった。

「卯木……。ここにいたか。……わしじゃ、わしじゃ」

「おっ。あなた」

彼女は、良人が坐るも待たず、すがりついた。