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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 頁
それから数日の後である。
或る夕、妙達が飛んで来た。
そして、観音堂の内のふたりを覗いて、仰山顔に。
「雨露次さん、来ましたぜ」
「えっ、何がです」
「先夜、ここへ来た石川ノ豊麻呂さまがいってたろうが。……いずれ後日、あらためて、迎えをよこすと。その迎えの衆が、散所屋敷から見えたんだよ」
「へえ、私たちを」
「たぶん、おまえ方の着がえだろうよ、衣裳箱やら、馬やら連れて」
「と、とんでもない。断ッて下さい。断って」
雨露次は、顔の色さえ変えて、慌てて言った。
「え、断るって」
妙達は、あきれたように。
「――雨露次さん、よけいなことだが、こんな運を逃がしたら、冥加に尽きはしないかね」
「でも、私たち夫婦には、いっそ今の境遇が、貧しくても、気らくなンでございますよ。しょせん、屋敷仕えなどは、柄でもないし、求めてもおりませんので」
「だがさ、散所屋敷の方では、おまえ方夫婦を、よほど、由緒ある者と、見ているらしいんだ」
「だからなお困ります。妙達さん、何とか、ていよくお詫びして、石川の御家来衆に、帰って貰って下さいまし」
雨露次だけではない、卯木も良人と一しょになって、頑ななほど、固辞するばかりだった。