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びしょうじょいちばんのり

美少女一番乗り

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《美少女一番乗り(びしょうじょいちばんのり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 73,583 字 · 149 頁

青空文庫

五

「待って、待って、市さま」

追い縋る小房の手を、振切るようにして市之丞は立去った。

庭の秋草の上に、泣伏していた小房は、やがて乳母に援けられて居間へ戻ったが、傷つきやすい乙女心の、今はもう世に縋る者もないと思う悲しさに、それからはただ明け暮れ泣いて送るばかりだった。

土岐六郎右衛門との不和が伝わると、世の悪評はますますつのって、岡野家の者といえば下僕や婢女に至るまで、人々の嘲笑と悪罵を浴びる有様であった。それにもかかわらず、当の左内は蛙の顔へ水の譬で、そんな不評判は耳にも入らぬという様子、近ごろでは家来たちを八方へ遣って、槍、鉄砲、甲冑、刀など、多くの武具をどうするかと思われるほど買込むことに専念していた。

岡野左内は果して「稗野吝内」であったろうか、果して人々の言う通り「金貸商人のような男」であったろうか?――その謎の解かれる日はついに来た。時はこれ慶長五年九月、治部少輔石田三成は、豊家恩顧の諸勇を擁して起ち、徳川家康また幕下の全勢力を集めて、互いに天下の権を争奪すべく、両軍はまさに関ヶ原へと出陣することになった。

五

会津若松城の大書院には、城主上杉景勝を前に、直江山城守、藤田信吉、安田壱岐はじめ老職十三人が額を集めて会議中だった。