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ずいひつ みやもとむさし
随筆 宮本武蔵
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《随筆 宮本武蔵(ずいひつ みやもとむさし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 141,786 字 · 278 頁
この辺りの、渓村や小さな滝津瀬などは、なかなか景趣に富み、肥後の小耶馬渓などともよばれている。旅客は、小さい枝付きの蜜柑などを買って、喰べながら歩いたりする。小天蜜柑とかいって、古くからこの辺の冬を彩っていたものらしい。
土地の人はこう云い伝えている。
「武蔵は、この辺の土地が、好きだった。それは自分の生れ故郷の景色と、この辺の景色がよく似ているからであった。閑があると、岩殿山へ遊びに来て、幼い日のことを思い出していた」
私は、武蔵の出生地の讃甘地方も、くまなく歩いているが、なるほど、そういう伝統を聞いてみると、山村磊寂たる平和な小天地は、どこか似かよっているようでもある。
千葉城の居宅をあけて、始終、この山へ来ていたという武蔵の気もちには、ふと、人間の子らしい、そうした回顧もあったはずである。すでに、その頃の武蔵が、病がちで、余命を知っていたことも事実らしい。何よりは、精神的な打撃もあった。晩年無二の知己とたのんでいた細川忠利と別れたことは、多くの寂寞を彼に与えた。忠利死後は、藩にあっても、彼はまったく、日常の事を廃して、詩歌、茶道、禅画などに遊んで、そして、姿が見えないと思うと、この霊巌洞に来て、独り、座禅していたといわれている。