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ひだのかいだん

飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選(ひだのかいだん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 130,271 字 · 263 頁

青空文庫

(二十四)

奥から母が再び出て来た。後につづいて例の怪しい者が二つ飛んで来た。

お杉は宙を歩むように、傍の小高い岩角へするすると登った。天を凌ぐ山毛欅の梢の間から、僅に洩るる空の色を仰いで、

「もう日が暮れるのに間もあるまい。今夜はお前達に大事の仕事があるんだよ。」

「阿母さん、何だ。」

「角川の市郎はお前の仇だ。彼奴が無事に生きて居ては、お葉は何日までも未練が残って、長くお前に附いて居まいよ。」

重太郎は眼を瞋らして首肯いた。

「それから彼奴は妾にも仇だ。先刻妾を突き倒して、半殺しの目に逢わした奴だ。お前達は其の復讐をしてお呉れ。頼んだよ。」

「可、大丈夫だ。」

勢い込んで駈け出そうとするのを、母は呼び止めて何事をか囁き示す中に、日も漸く暮れかかったらしい。例に依て濛々たる山霧が潮の如くに湧いて来た。

「早く行ってお出でよ。」

お杉の声を後に聞きながら、重太郎も※(「けものへん+操のつくり」、第4水準2-80-51)も霧の中を衝いて出た。お杉は笑いながら再び焚火を撥り初めた。

(二十四)

冬子を送って隣村まで出向いた安行と七兵衛とは、日が暮れるまで戻らなかった。が、それは左のみ珍しいことでも無い。