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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
線上閱讀小栗 虫太郎《黒死館殺人事件(こくしかんさつじんじけん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 頁
すると意外にも、その楔形をした破れ目の隙から、濛々たる温泉のような蒸気が迸り出たのだった。
その瞬間、一同は阿呆のような顔になって、立ち竦んでしまった。その湯滝の蔭に、たといいかなる秘計が隠されていようと、それはこの場合問題ではない。また、幻想を現実に強いようとするのが、ファウスト博士の残虐な快感であるかもしれないが、ともあれ眼前の奇観には、魂の底までも陶酔せずには措かない、妖術的な魅力があった。扉が開かれると、内部は一面の白い壁で、さながら眼球を爛らさんばかりの熱気である。しかし、その時熊城が、扉の側にある点滅器を捻り、またその下の電気煖炉に眼を止めて、差込みを引き抜いたので、やがて濛気と高温が退散するにつれ、室の全貌がようやく明らかになった。
つまりこの一劃は、殯室で云うところのいわゆる前室に当るもので、突き当りの扉の奥が、公教の戯言で霊舞室と呼ばれる中室になっていた。そして、隅に明いている排水孔から、落ち込んだ水が流れ出ているのである。また、中室との境界には、装飾のない厳めしい石扉が一つあって、側の壁に、古式の旗飾りのついた大きな鍵がぶら下っていた。