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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《あさひの鎧(あさひのよろい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 頁

青空文庫

「そうかねえ、わしは知らん」

「雪の多い年だと知ると、蜜柑は葉下へしがみつきますけれど、雪が少ない年だと知ると、葉の上へ顔を出しますそうで」

「ははあさうかねえ、面白いねえ」

「蜜柑は気候を知っておりますのね」

「そうらしいなア、偉いものだ」

「良人の心を知っているものは、誰が一番でございましょう?」

「…………」

「妻ですの! 女房でございます!」

とうとうここへもって来たのであった。

頼春はヒヤリとした。

(俺の秘密に感づいているらしい)

こう思ったからである。

椋鳥が群れをなして翔けて来たが、坪庭の柿の木へ一斉に下り、いかにもガサツに啼き立て、騒ぎ立て、しばらく喧騒をつづけたかと思うと、真昼の陽のひかりのみなぎっている空を、なんの屈托もなさそうに、また打ちそろって翔けて行った。

早瀬は欄干へ背をもたせかけ、涙ぐんだ眼でそれを見送った。

その横顔が頼春に見えた。

薄桃色をした可愛い耳たぶ、額から何んの窪みも持たず、真っ直ぐにつづいているおっとりした鼻、――六波羅第一と賞讃れた美貌が、娘時代と変わりはなく、今につづいているのであった。

が、思いなしか頬のあたりへ、すこしく陰影が出来たようであった。