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おもかげしょう

おもかげ抄

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《おもかげ抄(おもかげしょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 10,947 字 · 22 頁

青空文庫

三

吉公は頭を抱え横っ跳びに逃げだした。

かくて間もなく、――六兵衛は長屋の手入れをして急拵えの机から、筆、墨、硯、紙まですっかり揃え、近所の子持ちへ触れを廻してすっかり寺小屋を仕立てた。

「読書きも宜うございますが、街道筋のことで人気が荒うございますから、暇々に剣術のひと手も教えて頂けませんか」

中にはそう云う親もあった。

「宜しゅうござる、武士でない者に打つ術は必要ないが、避ける方法ぐらいは知っていても宜かろう、お教え致しましょう」

「そんなら、私共の伜もお願い申します」

と云うような事で、暫くする中に二十五六人の子供が集るようになった。

さて始めてみると孫次郎には備わった徳があるとみえ、別に強く叱る様子もないのに、子供達の挙措動作が眼に見えて良くなって来た。

従って今まで甘次郎に何が出来るかと見くびっていた連中も追々、是非にと云って子供を預けるようになったから、

「それ見ろ」

と六兵衛は鼻を高くして、「こうと睨んだ己の眼に狂いはあるめえ、いまに先生のお蔭で街道筋の奴等、一人残らず聖人になっちまうから見てけつかれ」

独りで訳の分らぬ自慢をしている。

三

初秋の午さがりであった。