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すみだがわ

すみだ川・新橋夜話 他一篇

永井 荷風

線上閱讀永井 荷風《すみだ川・新橋夜話 他一篇(すみだがわ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 44,378 字 · 88 頁

青空文庫

が響く。幕が動く。立見の人中から例の「変るよーウ」と叫ぶ声。人崩れが狭い出口の方へと押合う間に幕がすっかり引かれて、シャギリの太鼓が何処か分らぬ舞台の奥から鳴り出す。吉さんは長吉の袖を引止めて、

「長さん、帰るのか。いいじゃないか。もう一幕見ておいでな。」

役者の仕着せを着た賤しい顔の男が、渋紙を張った小笊をもって、次の幕の料金を集めに来たので、長吉は時間を心配しながらもそのまま居残った。

「長さん、綺麗だよ、掛けられるぜ。」吉さんは人のすいた後の明り取りの窓へ腰をかけて長吉が並んで腰かけるのを待つようにして再び「僕ァ役者だよ。変ったろう。」といいながら友禅縮緬の襦袢の袖を引き出して、わざとらしく脱した黒い金縁眼鏡の曇りを拭きはじめた。

「変ったよ。僕ァ始め誰かと思った。」

「驚いたかい。ははははは。」吉さんは何ともいえぬほど嬉しそうに笑って、「頼むぜ。長さん。こう見えたって憚りながら役者だ。伊井一座の新俳優だ。明後日からまた新富町よ。出揃ったら見に来給え。いいかい。楽屋口へ廻って、玉水を呼んでくれっていいたまえ。」

「玉水……?」

「うむ、玉水三郎……。」