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しゅんきんしょう

ちくま日本文学014 谷崎潤一郎

谷崎 潤一郎

線上閱讀谷崎 潤一郎《ちくま日本文学014 谷崎潤一郎(しゅんきんしょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 85,196 字 · 169 頁

青空文庫

まして田舎も田舎、行きどまりの山奥に近い吉野郡の僻地であるから、たとい貧しい百姓家であってもわずか二代か三代の間にあとかたもなくなるようなことはあるまい。津村はその期待に胸を躍らせつつ、晴れた十二月のある日の朝、上市から俥を雇って、今日私たちが歩いて来たこの街道を国栖へ急がせた。そしてなつかしい村の人家が見え出したとき、何より先に彼の眼を惹いたのは、ここかしこの軒下に乾してある紙であった。あたかも漁師町で海苔を乾すような工合に、長方形の紙が行儀よく板に並べて立てかけてあるのだが、その真っ白な色紙を散らしたようなのが、街道の両側や、丘の段々の上などに、高く低く、寒そうな日にきらきらと反射しつつあるのを眺めると、彼は何がなしに涙が浮かんだ。ここが自分の先祖の地だ。自分は今、長いあいだ夢に見ていた母の故郷の土を蹈んだ。この悠久な山間の村里は、大方母が生れた頃も、今眼の前にあるような平和な景色をひろげていただろう。四十年前の日も、つい昨日の日も、ここでは同じに明け、同じに暮れていたのだろう。津村は「昔」と壁ひと重の隣りへ来た気がした。ほんの一瞬間眼をつぶって再び見開けば、どこかその辺の籬の内に、母が少女の群れに交って遊んでいるかも知れなかった。