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えいがをつくるはなし

中谷宇吉郎集 第三巻

中谷 宇吉郎

線上閱讀中谷 宇吉郎《中谷宇吉郎集 第三巻(えいがをつくるはなし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 46,667 字 · 95 頁

青空文庫

壁面の最下部という一番傷んだ部分から仕事を始めたので、神宮紙一枚殆んど完成していたが、その中には肝心の壁画はまるではいっていないのである。弥勒の羂索のほんの一部、それも大半剥れた緑青の色が僅かに残っているくらいで、後は全部崩れつつある壁の傷痕の写生なのである。よく見ると、毛ほどの傷まで実物通りに出ていて、しかも全体の調子が如何にも白鳳以来の歳月の積りを思わせるように出来ていた。森田さんの話でもそうであったが、この程度に仕上げるには、一日に普通は一寸角くらい、余程よくて二寸角くらいしか描けないそうである。あの金堂の片隅にうずくまって、一月の間毎日壁の傷痕ばかり写生をしている人の気持は、実際の場面を見なくては、ちょっと想像が出来ないであろう。

森田さんは、第十号大壁の上端部を描いていた。高い櫓の上の狭い場所で、窮屈な恰好をしながら、今日で十八日目だといっていた。神宮紙一枚の三分の二ほど出来上っていたが、この方も楽ではないらしい。もっともこの部分には比較的完全な天女の画があるので、楽しみといえば言えるが、その色がなかなかの難物らしかった。指頭大の天女の唇に桃色の色が塗ってあったが、これも長年月の変色が加わっていて、どうしても現代の絵具では、その色が出ない。