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えいがをつくるはなし
中谷宇吉郎集 第三巻
中谷 宇吉郎
線上閱讀中谷 宇吉郎《中谷宇吉郎集 第三巻(えいがをつくるはなし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 46,667 字 · 95 頁
「この唇だけでも十八遍塗りましたが、どうしても色が出ません。切りが無いからこの程度で止めて置きました」という話であった。
絵具は大体現代の岩絵具と同じものらしいが、どれも皆千年の年月を経ていることが困るのである。森田さんは、緑青の古色に散々手を焼いた揚句、到頭試験管の中で緑青を焼いて、適当に酸化させて見たら、やっと同じ色が出たと言っていた。緑青は酸化銅ではなくて塩基性炭酸銅の筈だから、なるほど焼けば良いのだろうと感心した。差し出された試験管を手にしながら、それにしてもこんな調子でこの大壁を描き上げることが、現在のような待遇の下で、果して出来るかしらと不安な気がした。
一時間も居たら、私は少し疲れた。主な原因は余り緊張し過ぎた為であろうが、暗い室の中に長く居るのは疲れるものである。摸写中の壁面だけは煌々と照らされているものの、室内の他の部分へはなるべく光が行かないようにしてあるので、金堂の内部全体は暗いのである。壇の中央には、釈迦三尊仏が昔ながらの姿で、櫓にも蛍光灯にも何の関心もなく、寂然として安置されている。その上の天蓋の鳳凰も、天井の闇の中にじっととまったまま、千三百年の世のうつりを眺め来た眼で、今日の摸写の人たちの懸命の努力を見まもっていた。