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けんのよんくんし

剣の四君子

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《剣の四君子(けんのよんくんし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 10,514 字 · 22 頁

青空文庫

「苦行のかいがあったか」

と思われるように、頭脳は冴え、心は清澄に、技もわれながら、見事になって来た。

しかし、それは、技のみであった。

「心は?」

と、訊ねてみると、空漠だった。何も得てない気がした。

「これでいいのか」

迷い出した。一心不乱がみだれかけた。壁に突き当ったように技も進まない。われとわが身がふがいなくなって死にたくさえなった。

そこを超えて、

「何を」

と、魔とも人とも思われない形相になった頃、大杉の幹の刀痕は、九十を超えていた。

「もう百日」

とも思わなかった。甚助は発狂していたかも知れないのである。一刀、一刀、また一刀、空を斬っては鞘におさめる時の凄まじい彼の気合は、もうしゃ嗄れ果てて、何ものか世にあり得ない野獣の咳声のようだった。喉はやぶれ手足は血によごれていた。百日も櫛を入れない髪には落葉の骨がたかっていた。雨露にまみれた袴、小袖、それも傷ましく綻び果てている。そこからかなり距てている甚助の家へまで、近頃は、夜になると、最上川の水音より明らかに、彼の狂わしいしゃ嗄れ声が響いて行った。楡葉は、共に寝なかった。

いや遂には、

「百日の間は顔を見せぬ」