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けんのよんくんし
剣の四君子
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《剣の四君子(けんのよんくんし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 10,514 字 · 22 頁
と、子へも、守人へも、固く約した事も制しきれなくなって、守人の家まで忍んで来ていた。しかし、守人は、
「今あなたが、甘い涙などそそいだら、あなたは何のために、甚助どのを、あそこまで、きつい心で育てて来たか、意味のないことになりましょう」
と、窓を閉じて、固く一室に止めた。
それでも彼女は、破れ戸の隙間から、時折、彼方を窺ったり、耳をすましたり、悶えていたが、そのうちに、何思ったか社家の裏から馳け出して、最上川の畔に、衣をぬぎ捨て、月よりも白い肌、烏羽玉より黒い黒髪を、怯みもなく、川水に浸し、また川水を一心に浴びて、そこから見える神居の森へ、夜もすがら、掌をあわせていた。
まだ五月の末だったので、川水は冷たかった。渓谷の奥ふかくには雪さえ残っている頃である。彼女は、凍えたまま、仆れていた。夜の白んだのも知らなかった。
同じように。
その夜明け頃。
甚助も、大刀を持ったまま、熊野権現の前に、平べッたくなっていた。完全に呼吸もしていなかった。肌も、死人のような色をしていた。
陽がさし昇った。
巨杉の梢から金色の雫が、甚助の背へぽとぽと落ちた。美しい毛艶の神鴉が、ふた声ほど、高く啼いた。