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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
線上閱讀島崎 藤村《夜明け前(よあけまえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 頁
をかなぐり捨てて、言挙げということもさらになかった神ながらのいにしえの代に帰れと教えたのが大人だ。大人から見ると、何の道かの道ということは異国の沙汰で、いわゆる仁義礼譲孝悌忠信などというやかましい名をくさぐさ作り設けて、きびしく人間を縛りつけてしまった人たちのことを、もろこし方では聖人と呼んでいる。それを笑うために出て来た人があの大人だ。大人が古代の探求から見つけて来たものは、「直毘の霊」の精神で、その言うところを約めて見ると、「自然に帰れ」と教えたことになる。より明るい世界への啓示も、古代復帰の夢想も、中世の否定も、人間の解放も、または大人のあの恋愛観も、物のあわれの説も、すべてそこから出発している。伊勢の国、飯高郡の民として、天明寛政の年代にこんな人が生きていたということすら、半蔵らの心には一つの驚きである。早く夜明けを告げに生まれて来たような大人は、暗いこの世をあとから歩いて来るものの探るに任せて置いて、新しい世紀のやがてめぐって来る享和元年の秋ごろにはすでに過去の人であった。半蔵らに言わせると、あの鈴の屋の翁こそ、「近つ代」の人の父とも呼ばるべき人であった。