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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
線上閱讀島崎 藤村《夜明け前(よあけまえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 頁
物々しいこの空気を思い出しているうちに、半蔵の胸には一つの悲劇が浮かんで来た。峠村の牛行司で利三郎と言えば、彼には忘れられない男の名だ。かつて牛方事件の張本人として、中津川の旧問屋角屋十兵衛を相手に血戦を開いたことのある男だ。それほど腰骨の強い、黙って下の方に働いているような男が、街道に横行する雲助仲間と衝突したのは、彼として決して偶然な出来事とも思われなかった。ちょうど利三郎は、尾州の用材を牛につけて、清水谷下というところにかかった時であったという。三人の雲助がそこへ現われて、竹の杖で利三郎を打擲した。二、三か所も打たれた天窓の大疵からは血が流れ出て、さすがの牛行司も半死半生の目にあわされた。村のものは急を聞いて現場へ駆けつけた。この事が宿方へも注進のあった時は、二人の宿役人が目証の弥平を連れて見届けに出かけたが、不幸な利三郎はもはや起てない人であろうという。一事が万事だ。すべてこれらのことは、参覲交代制度の変革以来に起こって来た現象だ。
「憐むべき街道の犠牲。」
と半蔵は考えつづけた。上は浪人から、下は雲助まで、世襲過重の時代が生んだ特殊な風俗と形態とが目につくだけでも、なんとなく彼は社会変革の思いを誘われた。