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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《季節のない街(きせつのないまち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 201,379 字 · 394 頁
「僕はデスクの上に自分の仕事をひろげていた、文書部の者はまだ誰も来ない、社長秘書の黒板くんがちょっと顔を出したな、――さあ諸君、箸を取ってくれたまえ」島さんは煮えてきた湯豆腐のほうへ手を振り、三人に酌をして続けた、「やがて二平さんが来たね、例のとぼけたような顔で、角のやぶけた鞄を抱えて、ロスタン流にいえば鉛の靴をはかされたみたいな足どりでさ、ゆっくりかんと自分のデスクへゆき、鞄を置いて大きな欠伸をした、彼の日課の開幕というところだ」
野本くんはあみの佃煮を口へほうりこみ、手酌で酒を三杯ながしこんだ。
「さて鞄をあけて中の物を出し、タイプライターの蔽いをとった、そこへ会計部長がいそぎ足で出社して来たんだ、と、二平さんを見るなり、やあ、速達が届きませんでしたか、と云った」島さんは可笑しそうに、白いきれいな歯をみせて笑った、「やあ、二平さん速達が届きませんでしたか、ってね、そしてそのままいそぎ足で会計部のほうへいっちまったよ」
「あの人はいつもいそぎ足だ」と松井くんが云った、「いつもなにかを追っかけてるようだ」
「二平さんの顔がさっと変るのを僕は見た」と島さんが云った、「あのねぼけたような顔がきゅっとちぢまり、まっさおになって、いっとき呼吸が止ったようだった、僕はこの眼でそれを見たんだ」