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ことうのおに

孤島の鬼

江戸川 乱歩

線上閱讀江戸川 乱歩《孤島の鬼(ことうのおに)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 181,795 字 · 359 頁

青空文庫

「一笑の価値もないよ。なんぼ意見の衝突があったところで、思慮のある年寄りが、たった一人のかかり子を、殺す奴があるものかね。それに、君の口ぶりで察するに、母親という人は、そんな恐ろしい事の出来る柄ではないよ。手提げ袋は人知れず隠せるにしてもだ、母親が下手人だったら、何の必要があって、チョコレートの罐が紛失したなんて、変な嘘をつくものかね」

深山木はそう云って立上ったが、一寸腕時計を見ると、

「まだ時間がある。明るい内に着けるだろう。兎も角、その初代さんの家へ行って見ようじゃないか」

彼は室の一隅のカーテンの蔭へ入って、何かゴソゴソやっていたかと思うと、間もなく少しばかり見られる服装に変って出て来た。「さあ行こう」無造作に云って、帽子とステッキを掴むと、もう戸外へ飛出していた。私もすぐ様彼のあとを追った。私は深い悲しみと、一種異様の恐れと、復讐の念の外には何もなかった。例の系図帳や私のスケッチなどを、深山木がどこへ始末したのかも知らなんだ。初代の死んでしまった今となって、私にそんな物の入用もなく、てんで念頭にも置いてなかった。

汽車と電車の二時間余りの道中を、私達は殆ど黙り込んでいた。