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あしのうら
怪奇探偵小説名作選7 蘭郁二郎集 魔像
蘭 郁二郎
線上閱讀蘭 郁二郎《怪奇探偵小説名作選7 蘭郁二郎集 魔像(あしのうら)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 109,233 字 · 223 頁
鉄路
一
下り一〇五列車は、黒く澱んだ夜の空気を引裂き、眠った風景を地軸から揺り動かして、驀進して行った。
『いやな晩じゃねェか……』
(変ったことでも起らなければいいが)
というのを口の中で噛潰した、機関手の源吉は、誰にいうともなく、あたりを見廻した。
『うん……』
助手の久吉も、懶気に、さっきから、ひくひくと動く気圧計の、油じみた硝子管を見詰めながら、咽喉を鳴らした。
夜汽車は、単調な響に乗って、滑っている。
源吉は、もう今の呟きを忘れたように、右手でブレーキバルブを握ったまま、半身を乗出すように虚黒な前方を、注視していた。
時々、ヘッドライトに照された羽虫の群が、窓外に金粉のように散るほか、何んの変った様子もなかった。
列車は、せり出すように前進して行った。これは、下り坂にかかった証拠だ。
源吉は、少しずつブレーキを廻すと、眼を二三度ぱちぱちさせ、改めて、前方に注意を払った。
行く手には、岬のように出張った山の鼻が、真黒い衝立となって立ち閉がり、その仰向いて望む凸凹な山の脊には、たった一つ、褪朱色の火星が、チカチカと引ッ掛っていた。
レールは、ここで、この邪魔者のために鋭い弧を描いて、カーヴしていた。