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わがあいするしじんのでんき

我が愛する詩人の伝記

室生 犀星

線上閱讀室生 犀星《我が愛する詩人の伝記(わがあいするしじんのでんき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 116,728 字 · 231 頁

青空文庫

殆ど私は藤村と対談したことは二、三度くらいしかなく、宴会であっても永く話をしたこともなかった。遠くで見て、遠くで感じた藤村はきざや気どりや思わせぶりもなく、煙草ばかり沢山喫んで所在なげに宴会や集合が、いかにめんどうで退屈なものであるかが、彼がつぎから喫む夥しい煙草の本数で判った。全く宴会では煙草が藤村をたすけ、無聊をなぐさめている唯一のものであるらしかった。

「今日はなかなか盛会ですね。」

と、私は或る時たったそれだけの言葉をいうだけで、この大家の前で私は煙草を喫みながら言った。小説でも書かなかったら生涯この大家の前にも出られない男は、右の手に煙草をけむらせ、ひとかどの作家づらで対面していた。そしてそれはやっと今日はなかなかの盛会ですねという以外には、言葉の現わしようもない男であった。つまりその他の言葉は持って出ようにも、白皙温顔の藤村の前では、どうにも喋べり続けられないのであった。藤村がたくさんの仕事をしていて、その仕事の釣合いのとれない貧弱な仕事を持つ私は、やはり仕事の威勢で圧されるのは当然であった。われわれ文学のともがらは面はどんなにまずくとも、仕事の張っている人間の前ではいつも圧されていた。