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わがあいするしじんのでんき
我が愛する詩人の伝記
室生 犀星
線上閱讀室生 犀星《我が愛する詩人の伝記(わがあいするしじんのでんき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 116,728 字 · 231 頁
髭をていねいに剃り上げ好い洋服を着てのして歩くより、仕事であたりを捌くよりわれわれの捌きようはなかった。子守や女中さんまで眼をつけているものは、その人がらにある仕事の澎湃氾濫の状況であった。つまり私が藤村の前で、煙草を喫みながら相対するということは私がやっと七、八篇の小説を書いているそのことだけで、タバコをノミながら生意気にも赧くならずに、今日はなかなかの盛会ですね、と、そう言えたものであった。田舎のぽっと出の私にはこの山嶽のごとき詩人小説家である島崎藤村は、あまりに大きすぎていた、そしてこのような大家と、ああそうですね、さあ、それもそうですねと堂々と応酬できることは、私にはゆめにも空想したことがなかった。つまりここでも、例の七、八篇の小説だか、ろくろ首だかわからない物を書いている、たったそれだけで宴会場を泳いで歩いていられたし、この大家の前にぬうと臆面もなく出られたのである。これは正宗白鳥や徳田秋声の場合もおなじであったが、藤村の場合はあまりに隔れたところに彼はいたし、幼少年者だった私の眼からは途方もない山嶽だったのだ。
吾胸の底のこゝには
吾胸の底のこゝには