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あるしょうじょのしまで

或る少女の死まで 他二篇

室生 犀星

線上閱讀室生 犀星《或る少女の死まで 他二篇(あるしょうじょのしまで)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 113,554 字 · 228 頁

青空文庫

街のなかにも、そこここに珍らしく蝉の啼くのが遠くきこえたりした。

区裁判所の受附に名刺を出して、引越したあとで通知を受取らなかったが、今日聞いて出頭した旨を、かかりの検事につたえた。私は夏羽織をひらひらさせたり、土くさい浴衣がけの群と一しょに控所の腰掛けにもたれていた。私はここに集っている人人が、みな私のように或る種類の背景と、何処となく心にくらみをもっているように思われた。それと同時にまるで塵埃のようにゴミゴミした、人間の屑の屑ばかりが蚊のように群れている気もした。汗の匂いや、手足をむき出しにしている人人は、ことに私の嫌悪の激しい対照をしていた。私は私自らをこの埃のなかに見出すことを不愉快に感じた。たえず精神の仕事を目ざしてゆこうとする私の魂だけは、何人にもふれさせないし、触れるものもなかったけれど、外部から沁みついてくるような、暗い憂鬱な心持をどうすることもできなかった。

私は呼ばれた。給仕は私を若い、いろの白い検事のテエブルの前につれて行った。私は心が顫えがちなのを「しずかに」制して検事の顔を凝視した。

「引越したのか。道理で君だけが来なかった訳だ。