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あるかたきうちのはなし
或敵打の話
線上閱讀芥川 竜之介《或敵打の話(あるかたきうちのはなし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 9,276 字 · 19 頁
「もう八日経てば、大檀那様の御命日でございます。御命日に敵が打てますのも、何かの因縁でございましょう。」――喜三郎はこう云って、この喜ばしい話を終った。そんな心もちは甚太夫にもあった。二人はそれから行燈を囲んで、夜もすがら左近や加納親子の追憶をさまざま語り合った。が、彼等の菩提を弔っている兵衛の心を酌む事なぞは、二人とも全然忘却していた。
平太郎の命日は、一日毎に近づいて来た。二人は妬刃を合せながら、心静にその日を待った。今はもう敵打は、成否の問題ではなくなっていた。すべての懸案はただその日、ただその時刻だけであった。甚太夫は本望を遂げた後の、逃き口まで思い定めていた。
ついにその日の朝が来た。二人はまだ天が明けない内に、行燈の光で身仕度をした。甚太夫は菖蒲革の裁付に黒紬の袷を重ねて、同じ紬の紋付の羽織の下に細い革の襷をかけた。差料は長谷部則長の刀に来国俊の脇差しであった。喜三郎も羽織は着なかったが、肌には着込みを纏っていた。二人は冷酒の盃を換わしてから、今日までの勘定をすませた後、勢いよく旅籠の門を出た。
外はまだ人通りがなかった。二人はそれでも編笠に顔を包んで、兼ねて敵打の場所と定めた祥光院の門前へ向った。