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あるかたきうちのはなし

或敵打の話

芥川 竜之介

線上閱讀芥川 竜之介《或敵打の話(あるかたきうちのはなし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 9,276 字 · 19 頁

青空文庫

一

求馬は甚太夫喜三郎の二人と共に、父平太郎の初七日をすますと、もう暖国の桜は散り過ぎた熊本の城下を後にした。

一

津崎左近は助太刀の請を却けられると、二三日家に閉じこもっていた。兼ねて求馬と取換した起請文の面を反故にするのが、いかにも彼にはつらく思われた。のみならず朋輩たちに、後指をさされはしないかと云う、懸念も満更ないではなかった。が、それにも増して堪え難かったのは、念友の求馬を唯一人甚太夫に託すと云う事であった。そこで彼は敵打の一行が熊本の城下を離れた夜、とうとう一封の書を家に遺して、彼等の後を慕うべく、双親にも告げず家出をした。

彼は国境を離れると、すぐに一行に追いついた。一行はその時、ある山駅の茶店に足を休めていた。左近はまず甚太夫の前へ手をつきながら、幾重にも同道を懇願した。甚太夫は始は苦々しげに、「身どもの武道では心もとないと御思いか。」と、容易に承け引く色を示さなかった。が、しまいには彼も我を折って、求馬の顔を尻眼にかけながら、喜三郎の取りなしを機会にして、左近の同道を承諾した。まだ前髪の残っている、女のような非力の求馬は、左近をも一行に加えたい気色を隠す事が出来なかったのであった。