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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 頁
と、突然、桑名にいた酒井忠次が自身で、夜どおしの道程を、早馬で飛ばして来た。
「はて? 忠次が」
前線の司令が、無断、陣地を離れて来るなどは穏やかでない。しかも忠次は年六十の老将である。一族の与四郎重忠や与七郎忠利などもついているのに、老人自身が、なんで夜をとおしてやって来たか。
朝飯前だったが、家康は、
「すぐ」
と出座して、かれを待った。
「異な事が起りました」
「忠次。……何事か」
「昨日。桑名の西、矢田川原におきまして、信雄卿には、秀吉とご会見をとげられ、御当家へ何のおさたもなきうちに、和睦をお取りきめになったと、噂されておりまする」
「……矢田川原で」
「はい」
左衛門尉忠次は、家康の満面から、じいんと、沈みこんでゆくような、感情の抑圧を見て、反対に、ぶるると、くちびるを慄わせた。忠次には、抑えきれなかった。――信雄の大馬鹿者と、大声でどなりたいのだ。おそらくは今、家康が、心のうちで組みしくように抑えたものもそれだろう。怒るべきか、嗤うべきか、咄嗟に、自分で自分のうちにうごく激情をうけとりようもなく抑えてしまったにちがいない。
「…………」
茫然たる家康の眼もとだ。