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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 頁
こう、云いすてて、彼は、居合わせた近衆、馬廻りの、わずかな者どもをつれたのみで、はや清洲の城門を、駈け出していた。
(きょうのわが殿は、さながら桶狭間の折の、上総介信長さまにも、さも似たり。――打ち出たる所も同じ清洲の城)
あぶみ、口輪、よろいの草ずり、太刀の揺れ音など、鏘々と鳴ってゆくがごとき武者群の疾駆のなかで、高らかに、こんな思い出を、語りあって行く声もする。
家康は、それを耳にして、
(何も、信長どのの故智を倣うではないが、危急の局面を決定づけるものは、ただ時間の問題だ。――自分の胸算によれば、たしかに、間にあう数字だし、ちょうど、海辺もまだ干潮時のはずである)
と、しきりに、計数をたてつつ駈けた。
かれの胸中辞典には、武人がややもすると口にする乾坤一擲――だの、また――運ヲ天ニ任ス――などということばはない。
あくまで、経営であり、科学であった。だから、士気の鼓舞、戦機の一掴も、時により信長の風に似、信玄の智略に似、秀吉と共通する点はあっても、かれの胸算は、いつも合法的な計数にもとづき、決してケタは外していない。
その点で、きょうの急変への駈けつけは、まことに、割に合わない戦争だとかれは知っている。