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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 200,320 字 · 398 頁
ふつうの居館とちがって、寺院なので、たそがれの一刻は、何となく、物のあいろも深沈と仄暗い。――ふと彼がそこを開けると、まだ灯りの来ていない広やかな壁と畳の寒々とした中に、寂然と独り――たとえば、一箇の砧青磁の香炉がそこに在るかの如く――澄んだ面をしてひたと坐っていた。
「やあ、どうも」
いつでもだが、秀吉の声は、その伽藍がもっている寂寞を鐘のように破るものだった。
主の明るさに対しては、客もどうしても快活にせずにいられなかった。
「やあ、これは。――筑前殿にはいつもながらお麗しい御気色で」
光秀としては、最大な表現といっていい。努めて磊落であろうとしたのだ。けれどすこし話しているまに、そういう努力はすぐ霧消して、彼のすがたはやはり知性の結晶に回っていた。
隆い鼻すじから額にかけて、てらりと聡明が光っている。この年暮でちょうど五十四を越えようとしている光秀であった。凡材でも五十四の年輪を数えるほどになると、おのずから重厚が備わって来る。まして治乱の中に心胆を磨き、逆境から立身の過程に飽くまで教養を積んで来たほどな人物というものには、云い知れぬ奥行がある、床しいにおいがある。