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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 200,320 字 · 398 頁
もしこの行に、秀吉が加わっていたら、家康のこの行届き方を眺めて、真に誠意の現われと観たか、これは喰えない曲者と察したろうか。とにかく、信長なる一箇の気むずかしやをして、こうまで旅の日々を、日々是好日として楽しませるなどという手腕も、決して尋常一様な人間のよくなし得る設計ではない。おそらくこの状況を、はるか中国の遠くにいて、便りに聞いただけでも、秀吉の胸中には、家康のすがたが、従来より一倍大きく腹蔵に据え直されたにちがいない。その程度の想像は確かであるといっても過言にはならぬと思う。
夜は夜とて、酒肴の善美、土地の名物、鄙びた郷土の舞曲など、数々のお伽。そして宿殿の外には、夜空も焦がす大篝火を諸所に焚きつらね、
(侍どもが、かくまで、心をこめて、警固しておりますれば、かりそめにも、御道中とて、御不安のないように)
と、彼の眠りの安らかなるようにというところまで、少しの抜かりもなく、徳川家の誠意を示していた。
夜もすがら篝火にいぶされていた墨の富士は、暁と共に、茜色を映し、信長が本巣湖を出立する頃は、飛ぶ雲すらない一天に、くっきりと白妙の全姿を見せて、その裾野のゆるやかに野へつづく果てまで、鮮らかな線を描いていた。