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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 200,320 字 · 398 頁
と、将監は、片手に携えていた矢を示して、
「夕方、平井山の敵陣から、この矢を射こんで来た。矢文を負わせて。……それによると、羽柴の客将、黒田官兵衛孝高が、こよいわしに面談したいとかで、これへ訪れてくることになっている」
「なに、官兵衛が、来ますと。――故主に反いて、織田の陣営に奔った中国武士の面よごし、参ったら、なぶり殺しだ。ただはおけん」
「いやいや、秀吉の使者として、あらかじめ、矢文で通告して来るものを、斬ってはならん。使者を殺すなかれ、これは兵家のあいだの約束だ」
「敵将でも、ほかの者ならともかく、官兵衛とあっては、肉を啖っても飽きたらぬ気がします」
「敵に、肚の底を、見すかされまいぞ。むしろ笑って迎えろ、笑って――」
と、将監がなだめているとき、ふと、それは非常に遠く、また断続してではあるが、琴かと思われるような音が、人々の耳に聞えて来た。
そのとき三木の城は、ふしぎな静寂に囚われていた。墨のような一色の夜の底には、呼吸する人の気もなく、空には々と影なく形なく舞う落葉の声が不気味に翔けめぐって――。
「あッ? ……。琴だ」
ひとりの兵が、突然、眼を宙へあげて呻いた。