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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 192,758 字 · 383 頁

青空文庫

火縄を濡らすなよ」

部将は、組々の者へ注意していた。山岳地方は、大雨だったにちがいない。桂川の水勢は常よりも烈しかった。

槍隊は、槍と槍をつなぎ持ちにして渉り、鉄砲隊は銃座と筒口を持ち合って越えた。

光秀をかこむ騎馬の一隊は、迅い水泡を残して対岸へ上がっていた。どこともなく前方の闇でパチパチと湿っぽい銃音が断続して聞え、民家の火か、単なる篝か、遠くに火花が見えたが、小銃の音が止むと同時に、それらの閃きも消えて、真の闇に還っていた。

「お味方の先駆が、敵の斥候隊を追い払ったものでござります。火花もまた、円明寺川附近の農家へ、敵の小勢が、逃げるに当って、火を放けたのでしたが、直ちに、消しとめました」

伝令将校から報告がある。

光秀は意に介するなく、久我畷をすすみ、味方の勝龍寺城には入らず、わざとそこから西南方約五、六町ほどの御坊塚に本陣をさだめた。

この二、三日の天気癖である雨はすぐ霽って、墨を流したような濃淡を見せている空に星すら燦めき出している。

「――敵もしずかだの」

光秀は御坊塚に立つと、山崎方面の闇を一望して呟いた。

すでに秀吉の軍と、わずか半里を隔てて相対したと思う無量な感慨と緊張とが、その語の底に大きく呼吸をしていた。