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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 192,758 字 · 383 頁

青空文庫

万が一のことでもあってはと、年寄の取りこし苦労から、切腹とはいかなる味のいたすものかを、お先に試みてみましたところ、案外、軽いものでござりまする。――致さぬ前に思うほどのた打つものでもござりませぬ。……まずまず、左様に思し召して、おこころ悠やかに遊ばしますように」

与三左衛門はそう云いながら、よろいの胴を外し、腹帯を解きはじめた。そしてことば静かに、

「――御覧候え」

宗治は眼をみはった。――見事に老腹を掻ッ切っているではないか。紅の腹巻を解くとともに、さすがに気丈な与三左衛門も鬢色に死をあらわして、

「憚りながら……」

と、首をさしのべ、眸で介錯を求めた。

その耳元へ口をつけて、

「与三左衛門、案じるな。やがて見ておれよ。彼方の水の上を」

一颯の光は戛然と鳴った。宗治は、自分に先立つ道づれを、涙とつるぎの下に見た。

午の刻は近づいていた。

宗治はすっかり身支度も調え終った。

きょうまでは、一滴たりと、城中の者の生命をつなぐ大事な物としていた飲み水も、今はよかろうと、手桶に一杯持てと命じ、その水で、籠城四十日以来の身の垢を浄め、髪も梳いた。

麻の小袖に水裃の姿もすずやかに見直された。