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しんせい
新生
島崎 藤村
線上閱讀島崎 藤村《新生(しんせい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 頁
妻の肌身につけた形見の着物を寝衣になりとして着て見るような心持でもって、沈黙の形でよくあらわれた夫婦の間の苦しい争いを思出したかった。
岸本の眼前には、石灰と粘土とで明るく深味のある淡黄色に塗り変えた、堅牢で簡素な感じのする壁があった。彼は早三年近くもその自分の部屋の壁を見つめてしまったことに気がついた。そしてその三年の終の方に出来た自分の労作の多くが、いずれも「退屈」の産物であることを想って見た。
「父さん」
と楼梯のところで呼ぶ声がして、泉太が階下から上って来た。
「繁ちゃんは?」と岸本が訊いた。
泉太は気のない返事をして、何か強請りたそうな容子をしている。
「父さん、蜜豆――」
「蜜豆なんか止せ」
「どうして――」
「何か、何かッて、お前達は食べてばかりいるんだね。温順しくして遊んでいると、父さんがまた節ちゃんに頼んで、御褒美を出して貰ってやるぜ」
泉太は弟のように無理にも自分の言出したことを通そうとする方ではなかった。それだけ気の弱い性質が、岸本にはいじらしく思われた。妻が形見として残して置いて行ったこの泉太はどういう時代に生れた子供であったか、それを辿って見るほど岸本に取って夫婦の間だけの小さな歴史を痛切に想い起させるものはなかった。