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はんしちとりものちょう

時代推理小説 半七捕物帳(一)

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《時代推理小説 半七捕物帳(一)(はんしちとりものちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 158,540 字 · 319 頁

青空文庫

「おぼえていろ。素読吟味のときにきっと仕返しをするぞ」

玄関へ転げ込んだ大三郎の顔色はまっ蒼であった。それが奥方の耳にもきこえたので、彼女の尖った神経はいよいよふるえた。かの子供たちはみな来月の素読吟味に出るのである。由来聖堂の吟味に出た場合に、大身の子と小身の子とはとかくに折り合いが悪い。大身の子は御目見以下の以下をもじって「烏賊」と罵ると、小身の方では負けずに「章魚」と云いかえす。この烏賊と章魚との争いが年々絶えない。ある場合には掴みあって、係りの役人や附き添いの家来どもを手古摺らせることも往々ある。双方が偶然に出逢ってもそれであるのに、ましてや相手が意趣を含んで、最初からその仕返しをする覚悟で待ち構えていられては堪まらない。いつの吟味の場合でも、大身の章魚組は少数で、小身の烏賊組が多数であるのは判り切っている。殊にこっちの伜が気嵩のたくましい生まれつきならば格別、自体がおとなしい華奢な質であるだけに、母としての不安は又ひとしおであった。ことしの朝顔は確かにこの禍いの前兆に相違ないと恐れられた。

すでに吟味の願書を差し出したものを、今更みだりに取り下げることは出来ない。