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はんしちとりものちょう

時代推理小説 半七捕物帳(三)

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《時代推理小説 半七捕物帳(三)(はんしちとりものちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 201,612 字 · 405 頁

青空文庫

今夜はもう五ツ(午後八時)を過ぎているので、海辺の茶店は閉まっていた。北から数えて五つ目の茶店の前で、下総屋の番頭吉助は立ちどまってそっと左右を見まわした。かれはいつの間にか頬かむりをしていた。

四

「ふだんと違って今の身分だから、店をぬけ出すのは容易じゃない。これでも神明前から駕籠で来たのだ」

「でもどんなに待ったか知れやしない。あたしはきっと欺されたのかと思っていたのよ。だましたら料簡があると覚悟していたんだけれど……」

それが女の声であるので、半七は肚のなかでほほえんだ。かれは葭簀のかげに忍んで、隣りの茶店の奥の密談を一々ぬすみ聴いていた。

「それで、これからどうしようというのだ。どうしても斯うしちゃあいられないのか」

「随分いろいろに趣向もして見たけれど、向うに荒神様が付いているんでね。今夜という今夜はもうどうにもしようがないと見切りをつけて、おまえさんのところへ駈け付けた訳なんですから、その積りで度胸を据えてくださいよ」

「だが、うっかり姿を隠したら猶々こっちに疑いがかかる訳じゃあないか」と、男はまだ躊躇しているらしく答えた。

「それがいけない。