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はんしちとりものちょう

時代推理小説 半七捕物帳(三)

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《時代推理小説 半七捕物帳(三)(はんしちとりものちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 201,612 字 · 405 頁

青空文庫

このあいだの晩、お鉄が両国橋の上をさまよっていたのも、身投げや心中というほどの複雑った問題でもなく、あるいは単に逢曳きの約束をきめて、あすこで男を待ち合わせていたのかも知れない。こう考えるといよいよ他愛のない、甚だ詰まらないことになってしまうのであるが、半七の胸にただ一つ残っている疑問は、自分に対するその当時のお鉄の態度であった。かれはどうしてもその事情を打ち明けないと云った。その一生懸命の態度がどうも普通の出会いや逢いびきぐらいのことではないらしく、なにかもう少し入り組んだ仔細が引っからんでいるらしく思われてならなかった。しかし六助もその以上のことはなんにも知らないらしいので、半七もいい加減に挨拶して別れた。

別れて一、二間あるき出して不図みかえると、あたかも彼の立ち去るのを待っていたかのように、頬かむりをした一人の男が蕎麦屋の前に立った。そのうしろ姿が彼の両国橋の男によく似ているので、半七もおもわず立ち停まった。案外無駄骨折りになるかも知れないとは思いながらも、この職業に伴う一種の好奇心も手伝って、かれはそっとあと戻りしてそこらの塀の外にある天水桶のかげに身をひそめていると、今夜も暗い宵で、膝のあたりには土から沁み出してくる霜の寒さが痛いように強く迫って来た。