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はんしちとりものちょう

時代推理小説 半七捕物帳(三)

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《時代推理小説 半七捕物帳(三)(はんしちとりものちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 201,612 字 · 405 頁

青空文庫

男は熱い蕎麦のけむりを吹きながら、時々にあたりを見まわしているのは、やはりかのお鉄を待ち合わせているのであろうと半七は想像した。

しかも其のお鉄はなかなか出て来ないので、男はすこし焦れて来たらしく、二杯の蕎麦を代えてしまって銭を置いて、すっと出て行った。ここは殆ど下谷と神田との境目にあるところで、南にむかった彼の足が加賀屋の方へ進むのは判り切っているので、半七もその隠れ場所から這い出して、すぐにそのかげを慕ってゆくと、男は果たして加賀屋に近い横町の暗い蔭にはいった。そこで彼は頬かむりを締め直して、両手を袖にしながら再びしばらくたたずんでいると、やがて女の下駄の音がきこえた。女は賑やかな大通りを避けて、うす暗い裏通りから廻り路をして来たらしく、あと先をうかがいながら男のそばへ忍んで行った。

二人はその後も時々に左右を見かえりながら、なにか小声で囁き合っているようであったが、あいにく其の近いところには適当の隠れ場所が見あたらないので、唯その挙動を遠目にうかがうばかりで、かれらの低い声は半七の耳にとどかなかった。そのうちに談判はどう間違ったのか知らないが、男の声は少しあらくなった。