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ほんじょりょうごく

本所両国

芥川 竜之介

線上閱讀芥川 竜之介《本所両国(ほんじょりょうごく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 21,005 字 · 43 頁

青空文庫

長命寺にも震災以来一度も足を入れたことはない。それから長命寺の桜餅は――勿論今でも昔のように評判の善いことは確かである。しかしや皮にあった野趣だけはいつか失われてしまった。……

川蒸汽は蔵前橋の下をくぐり、厩橋へ真直に進んで行った。そこへ向うから僕等の乗ったのと余り変らない川蒸汽が一艘矢張り浪を蹴って近づき出した。が、七、八間隔ててすれ違ったのを見ると、この川蒸汽の後部には甲板の上に天幕を張り、ちゃんと大川の両岸の景色を見渡せる設備も整っていた。こういう古風な川蒸汽もまた目まぐるしい時代の影響を蒙らない訳には行かないらしい。その後へ向うから走って来たのはお客や芸者を乗せたモオター・ボートである。屋根船や船宿を知っている老人達は定めしこのモオター・ボートに苦々しい顔をすることであろう。僕は江戸趣味に随喜するものではない。しかし僕の小学時代に大川に浪を立てるものは「一銭蒸汽」のあるだけだった。或はその外に利根川通いの外輪船のあるだけだった。僕は渡し舟に乗る度に「一銭蒸汽」の浪の来ることを、――このうねうねした浪のために舟のゆれることを恐れたものである。