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さくらじま

桜島・日の果て・幻化

梅崎 春生

線上閱讀梅崎 春生《桜島・日の果て・幻化(さくらじま)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 169,810 字 · 345 頁

青空文庫

〈道を間違えたんじゃないか〉

その危懼はあった。だから何度も何度もふり返り、風物を確めながら、ここまで歩いて来たのだ。ほっとひらけた風景は、たちまち彼を拒否した。家も何軒か建っている。プレハブ住宅もある。庭に向日葵が何本も揺れている。

彼は一歩一歩、河原の方に歩く。途中でつき当った。護岸工事がほどこしてあり、河原には降りられない。気のせいか、川幅もずっと広くなった。護岸の上には、人が落っこちないように、コンクリートのガードがある。五郎はそこに腰をおろして、煙草を取出した。彼がいた下宿の場所も、向日葵が咲いているあたりだと思うが、はっきりは判らない。

「あの女将、まだ生きているだろうか?」

六師団付の軍人に嫁ぎ、離縁されて、ここに下宿屋を建てた。どこか色っぽい感じの女で、生きていたらもう五十五か六になっている筈だ。五郎は一番いい部屋を占領し、毎日ノートと教科書をかかえ、インク瓶をぶら下げて登校した。学校では水泳部に入り、二百米平泳を三分十秒台で泳いでいた。早い方ではなかったが、当時としてはそれでインターハイの予選ぐらいには出場出来た。水泳の練習が済んで風呂に入り、上ると腕や胸の皮膚がぴんと湯を弾いた。