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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 112,073 字 · 223 頁

青空文庫

――佐月どのは徳仁でございました。

「いっそ酒を飲み美食をし、好き勝手にふるまっていたら、もっとなが生きをしたかもしれぬ」

――お口ぐせでございますな。

「船岡(原田甲斐)はいたか」

――みえませんでした。

「甲斐が来なかったと」

――まだ傷養生をしているそうで、松山(茂庭家)の葬儀には、家老の片倉隼人がまいりました。

「傷養生は口実だな」

――私もさように存じました。

「傷養生は口実だ、彼がけがをしたのは正月のことではないか」

――正月中旬と聞きました。

「いまは八月だ、まる七カ月もかかる傷のようには申さなかった、これは茂庭と絶縁したというのが真実かもしれぬぞ」

――さようでしょうか。

「律の離縁をまだ不審に思っているのか」

――離縁の理由は根のないことです。中黒達弥と申す者と密通したという風評は、まったく事実無根で、これは船岡で知らぬ者はございません。

「甲斐も密通のことなど申してはおるまい、家風に合わぬという理由の筈だ」

――しかし中黒達弥を召放しております。そのために密通の風評が起こりましたので、そこになにかこんたんがあるものと、私は存じます。

「ではなぜ佐月の葬儀に来ないのだ」